【THE対談#002】
音楽クリエイターとしてJ-POPシーンを牽引し続け、日本にいる限り手がけた音が耳に入らないのが難しいほど多くの人気作品を生み出している「鈴木Daichi秀行」氏と新気鋭のクリエイター集団SCRAMBLES代表である「松隈ケンタ」の直接対談!
音楽シーンの第一線を行く2人が語る、制作秘話や音楽シーンへの熱い想いから見える、時代を生き抜く“クリエイターの形”とは!?
第2回【機材編】
機材についてお伺いしたいと思います。Dachiさんというと、機材マニアの印象が強いんですが、実制作でアナログ機材はどれくらい使ってらっしゃるんですか?
鈴木:うーん、ケースバイケースだけど、アナログ一辺倒!ってことはないかな。モー娘。やってるときなんかは、PCとソフト音源1台ぐらいでほとんどPCの中でやってたりしたし。当時はそれが斬新だと思ったからなんだけどね。ソフトも出てきたけどみんなまだアナログを通してたりしてたから、逆に行ってみたって感じ。
逆行ですね。
鈴木:今はもう当たり前になってるけどね。今はこんなことになってるけど、これは元々自分のスペースでやるのが好きだったから、家でどれだけやれるのか!?ってことを突き詰めてみようと思ってやってたら、こんなになっちゃったっていう。笑
松隈:実際ここまで機材があって、どこまで使うんですか?
鈴木:結構まんべんなく使ってるかな。ドラムを録ったりするときはチャンネル数も多いし。集めてる理由は他にもあって、本物って言われてる機材がどんなものなのか知りたかった。エンジニアじゃないからスタジオで機材に触れる機会があんまりなくて、始めはドラム録りのマイクプリとかもその辺にあるようなのでやってたんだけど、なかなか納得いく仕上がりにならなかったんだよね。どうせやるならいい音で録りたいって思ったから、色んな機材を試すようになって、そうしたら出来上がりのクオリティが全然違うものになった。そこで、本物って何か?みんながいいって言ってる“いい”って何かが分かるようになった。
松隈:ソフトのプラグイン使うにも本物を知ってないとうまく使えないですもんね。
鈴木:もう一ついうと、昔は機材に関して知識がないとスタジオで会話ができなかったの。いまはもうアレンジャーが録りからミックスまでやるのが増えてるけど、昔って分業感が強かったから、エンジニアさんからこんなキックじゃダメだよ!とか意見をもらうことが多くて。そこでじゃあこんな感じですかね?とかレスポンスするためには知識を持って自分で機材を使いこなしていかないといけなかったんだよね。そうじゃないと言われるがままになっちゃうから。
鈴木:これは8トラレコーダー。ドラムだけ録って戻したりしてたまに使ってる。
松隈:上のは何ですか?テレフンケン?
鈴木:これはマイクプリ。ヒトラーとかが使ってた時代のやつ。
松隈:ヒトラー!?いきなりすごいの出てきましたね。笑
鈴木:1920年代あたりのやつ。現役で使えるよ。V76っていうビートルズが使ってたマイクプリがあるけど、それの原型。すごくいいんだけど難点はスイッチがマイナスドライバーで回さなきゃいけなくて、ちょっとめんどくさい。笑
最新鋭の機材の中にこんなものが。どこで手に入れるんですか?
鈴木:普通に売ってるよ。でも大体は知り合いから手に入れたりするのが多いかな。
機材に関して松隈さんはどうですか?
松隈:僕なんかは完全にprotools以降世代で、始めのうちはカセットMTRとか使ってたけどすぐデジタルのMTRになってそのままprotoolsみたいな。バンドのときは、CHOKKAKUさんに有名なスタジオ連れてってもらったりする機会があったけど、今はDaichiさんもおっしゃってたみたいに、あんまりいかんようになったね。
鈴木:スタジオ行く回数はホントに減ったね。
本当の音を知らない人が増えてしまう
松隈さんは機材に関してこだわりは何かありますか?
松隈:ギターアンプはこだわるかな。昔、楽器屋で働いてたことがあって、その時あった店のアンプやエフェクター全部かたっぱしから突っ込んで試奏した。笑 だから普通のギタリストよりその辺の感覚は細かいかなと思うよね。
それはギタリストからすると、かなり羨ましいですね。
松隈:エフェクターも全部試した。結果分かったのは、大体音が悪くなるな、ってこと。笑
鈴木:劣化していくみたいな。笑
松隈:真空管とかも色々試したりしてかなり経験になりましたね。だから今のデジタルアンプを使っても違いがわかるから自分なりに音作りができてるのかなと思う。逆に今の完全なデジタル世代だとアンプはJCM2000しか刺したことありませんとかいう人も普通になってくるのかな?と思うとちょっとまずい気はする。本当の音を知らない人が増えてしまうのかなって。マーシャルの4発の重みを知らないみたいな。あれを一人で持ちあげるコツとかあるんですけどね。笑
技術の進歩に使う側が追い付かないことが起こりうるということですね。
鈴木:もちろん、新しいものはドンドン使っていくべきだと思うけど、経済的な理由で本物から遠くなってしまうのは良くないよね。そのものが素晴らしいから使うならいいんだけどね。
松隈:打ち込みのほうがいい作品になる、って思うならですよね。
鈴木:本当はこうしたいのに、できないからっていうのは避けないとね。いいものは残していかないと。だからアレンジのときなんかは頼まれなくても自分からドラム録っちゃったりするもん。笑 いい物にしたいし残したいから。
同じモニターでもスタジオによって聴こえ方は変わる
昔は分業スタイルが多かったとおっしゃってましたが、今はご自身で録り~ミックスまでやられることが多いんですか?
鈴木:ケースバイケースだけど、完パケまでやる場合が増えてるかな。大きなものだと、まだ分業の場合が多いけど、バジェットが小さいものは自分で完結させるものが多いね。
ポジションの垣根がなくなってきているということですね。でも大変じゃないですか?
鈴木:そうだね。笑 アレンジャーがレコーディングディレクションもやるって昔ならなかったし。でもやろうと思えばやれちゃうことなんだよね。その方が早かったりするし。あとはいつも同じ環境でやれるから分かることが多いのも利点かな。
松隈:それ俺も思います。色んなスタジオ連れてかれて聴いても細かいところまでは分かんない場合があるんですよね。
判断の基準をどこに置くか難しいですよね。
鈴木:TDとかもその場でベストだと思っても、家持って帰ったらスカスカじゃん!とかある。逆に超低音出てたとか。笑
松隈:意外とありますよね、同じモニターでもスタジオによって聴こえ方は変わるし、更にいうとその時のテンションでも変わってしまうから、判断がかなり難しいんですよね。
なるほど。ただいつも同じ環境というのは実際には難しいのでは?
松隈:まあそうやね。でも確実にやりたいなら持ち帰りで慣れてる環境でやるべき。とはいえ実際はそうもいかないこともあるから、いつも同じイヤホンを持ち歩くようにしてるよ。外のスタジオでもそれで聴いて、少しでも慣れた環境に近づけるように。
鈴木:環境とか時代の流れでそうせざるを得なくなったってことなんだろうね。もう少し色んなことがゆっくり進むかなと思ってたんだけどね、時代的に。
ご自宅の環境はいつからあるんですか?
鈴木:ここは8年か9年くらいなんだけど、最初は地下で自分の作業場と、あと友達のエンジニアたちと、pro toolsと小さいモニター置いて、ライブミックスとかを始めたっていうのが最初で。その後、アーティストアルバのアルバムをプロデュースすることになったときに、うちで歌を録ってみようかなと思って。それでミックスもやってみたら、できちゃったじゃんという。音もちゃんとしてたしこれはイケると思って、それからいろいろと整備して、リフォームとかもして。
松隈:エンジニアさんもいらっしゃるんですよね。
鈴木:うん。エンジニアも仕事で、呼んで来てもらったりとか。
松隈:いつも基本的には決まった方でやるんですか。
鈴木:決まっているというか、何人かうちで慣れている人に来てもらって。人もなるべく慣れてる人のほうが、環境の変化で音が変わるってことも少ないしね。
鈴木Daichi秀行
埼玉県出身。作編曲家プロデューサー
バンドからシンガーソングライター、アイドルまで得意な幅広い音楽性を生かして活動中。自身の活動拠点「StudioCubic」から時代に合わせたより明確なサウンドを表現し続けている。
YUI / 絢香 / miwa / ダイスケ / LiSA / 家入レオ / AAA / 広瀬香美 / いきものがかり / 平井堅 / mihimaruGT / ゆず / JUN SKY WALKER(S) K. SMAP 少年隊 News 山下智久 SexyZone HEY SAY JUMP モーニング娘。 松浦亜弥 ℃-ute Berryz工房 SUPER☆GiRLS AKB48 ももいろクローバーZ 平野綾 etc.
松隈ケンタ
福岡県出身。作編曲家プロデューサー
ロックバンドBuzz72+を率いて上京、2005年avextraxよりデビュー。CHOKKAKUのプロデュースにより4枚のCDを発表。
バンドの休止後に作家として楽曲提供を始める。2011年、音楽クリエイターチーム「SCRAMBLES」を結成。
柴咲コウ/中川翔子/BiSサウンドプロデュース etc.
THE対談#002「鈴木Daichi秀行 × 松隈ケンタ」2/4
編集・インタビュー /平シンジ